産学連携が進行するにつれて、その形態も多様化しています。慶應義塾大学環境情報学部の國領二郎教授と、日本ユニシスの保科剛 最高技術責任者の対談の第3回は、今後の産学連携のあり方について取り上げます。
保科 SFC(慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス)は他の大学に先駆けて、インターネットを導入、新しい文化への入り口を提示しましたが、ユビキタス社会についても大学で斬新な構想をお持ちのようですね。
國領
私が現在構想しているのは、ユビキタスを、研究室の中だけ、あるいは年に数回、どこかの会場でデモンストレーションするというのは、もう必要なくなっており、より実用的なものを見せたいということです。まずは少なくともキャンパス内で実験し、いずれはキャンパスがある藤沢市全体で実験し、そのうち神奈川県西部ぐらいまで広げていきたい。キャンパス内や地域の中に導入して、実際に日常の利便性、安全性が高まるということを実証すべき時期にきています。幸い、すでにSFCには分厚いIT基盤が存在します。その基盤上にセンサーやいろいろな機材を搭載していけば、他のキャンパスよりも早く実現できるはずです。
保科
その実験は是非産学共同で進めていくといいですね。
國領 これまでのように、研究室の中のような狭い空間だけで「何でもできます」という形を見せるのは簡単です。それを一定の広がりの中でやることは、技術的にも資金的にも大変でしたし、プライバシーの問題もあります。けれども、とりあえずキャンパス内ぐらいまで広げて、実証できないと、地域社会に導入することはできません。社会的ルールまで含めた形で、きちんと動かしてみたい。ユビキタスのアプリケーションを学生が自由に立ち上げられるようなインフラを作りたいですね。技術的には意外に簡単で、センサーネットワークを張り、皆でICタグを持って、所在を知られたくない場合はいつでもスイッチが切れるようにする。そしてリーダーの位置情報と、ICタグとリーダーがいつ接触したかというデータベースだけを開放する。どのICタグを誰が持っているかという情報は秘匿にしておき、仲間の中だけで教え合う仕組みにすればプライバシーに絡む問題は起きないはずです。
保科 その上で、学生がどんな使い方をするか、むしろ指示しすぎないことが重要だと思います。インターネットの時も、浸透するにつれて、使い方はどんどん使用者自身が拡充させてきました。携帯電話もポケベルも、行き渡りさえすれば、皆が柔軟な発想で面白い使い方を考え出してきたわけです。
國領 ビジネスモデルとしては、様々な面白い形が想定できます。例えば、暇そうな学生に対し、駅前の飲み屋が、「今来れば500円引き」という告知をする。図書館にいる学生には声をかけず、生協で遊んでいる学生だけに声をかけるとか(笑)。
保科
あっと思うようなアイデアが学生から出てくることが期待されます。プラットフォームさえできれば、学生の側から何らかのイノベーションが起き、面白いアイデアが実現される可能性が高いと思います。
國領 これまでの産学連携は、大学が研究成果を披露し、企業に参加を募るという形でした。けれども、最近では、大学と企業が共同で行っていることを一緒に披露して、見てもらう形が出てきています。つまり、大学と企業がパートナーとして情報発信し、社会に問いかけるという形になってきたわけです。大学は企業と一緒になって世の中を変えていくプラットフォームとして機能すべきであり、そうした目的意識で企業と連携していきたいですね。
ICタグだけでなく、多くの個体識別技術の可能性を検討した上で、それらを基盤としたビジネス・社会モデルの未来像を展望するため、ベンダー企業、ユーザ企業がともに議論をしていくプロジェクト。
2002年4月に「慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)をベースとした大学発ベンチャーインキュベーションの成功モデルを作る」ことを目的として発足した、「SFC Incubation Village研究コンソーシアム(SIV)」を引継ぎ、「教育」、「アウトリーチ」、「研究」を3本柱にして活動を推進しているラボラトリー。
保科 大賛成です。それこそが本当の意味での産学連携と言えます。実際、昨年のTRONSHOWにおける日本ユニシスブースでは、大学、企業それぞれで実施しているものを示すのではなく、共同活動の成果を紹介いたしました。まさに産学連携ブースといった趣きで、他の企業ブースとはまったく雰囲気が違っていました。SFCと日本ユニシスが一緒に作ったシステムを、学部生と社員が一緒になって説明したのです。従来の産学連携は研究ベースで、実務とは切り離された感もありました。あるいは研究を依頼したのだから、大学から一定の成果があがってくるまで、企業側が完全な待ちの姿勢になってしまうこともありました。
このTRONSHOWでは、SFCと日本ユニシスが作業を一緒に進めて、発表も共同で行いました。省庁の方をはじめとして、たくさんの方がブースを訪れてくださいましたが、皆さん、こんなやり方もあったのかと驚かれていました。今後も、こうした人的交流を伴う産学連携を進めていきたいと考えています。
以上3回にわたり「ユビキタス社会のプラットフォームを語る」と題して、お二人の対談を紹介しました。 産学連携によって実用フェーズを迎えたユビキタス社会がその広がりを加速させていく。これからの企業と大学の関係の在り方の一端を垣間見た気がしました。
※ 昨年の TRONSHOWでの日本ユニシスブースの様子はこちらで紹介されています。
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